〜 紺の章 〜



西の大国とうたわれるラブチュ王国。

この国の次世代を担う 若き者がここに二人――――





国王専任護衛隊長である父を持つロクス。

そして 王国の司祭を務める父を持つシギュマ。



二人は王国に生まれ 王国に育ち 同じように王国に学び

兄弟のように仲が良かった。

そして 13歳の年を迎えると二人は王国の騎士団に入隊し

訓練生として 剣の稽古に励む毎日を過ごしていた。







ここラブチュ王国に存在する騎士団とは 国の秩序 そして国を守るために

剣や弓 騎馬に優れたもの・・・ 言わば闘いのスペシャリストで構成されている。

第10騎士団まである隊には 抜粋された者が隊長となって 指揮をとり 隊をまとめる。

その隊長をまとめ 指示を渡すのは国王直々に任命され限られたエリートで

構成される王族直属護衛隊であり その頂点に立つのが ロクスの父だった。



平和になった今の世の中 闘いの場というものはないに等しいが

一昔前までは 国と国との争いが少なくもなく

その時代 ラブチュ王国騎士団は目覚しい力を発揮した。

西の大国。 そう言われる原点は 騎士団の存在があったからこそ

占領も支配されることなく 自国の発展を遂げたと言っても過言ではない。



そんな騎士団に憧れ 国民はもちろんのこと 各地から入隊を希望するものは今でも多かった。

ロクスとシギュマも例外ではなく 入隊を許される13歳になってすぐ志願を申し出た。

いや 互いに王国を司る父の背中を見てる彼らにとっては憧れや義務云々ではなく

そうすることが自然だったという方が正しいかも知れない。





シ 「今日の稽古も厳しかったな」

ロ 「そうだな。 でも、まだ物足りなかったりする」

シ 「相変わらずだなロクスは。 俺で良かったら付き合うけど?」

ロ 「よし。 じゃあ裏庭で稽古の続きをやろうぜ。 言っておくけど手加減はなしだ」

シ 「上等だ。 ロクスと剣を合わせると俺も上達するしな」



幼い頃から父に剣技を教わっていたロクスは 訓練生はおろか

騎士団の中に至っても群を抜いていた。

そして いつもロクスと一緒に剣の稽古をしているシギュマの腕もかなりのものであり

入隊してわずが3ヶ月で 騎士団の隊員になることを許された。





シ 「なぁ ロクス。 このまま行けば俺達 騎士団隊長になるのも そう遠くはないかもな」

ロ 「騎士団隊長? シギュマは隊長になりたいのか?」

シ 「そりゃそうさ。 騎士団に入隊したからには まずは隊長になることが目標だろ?
   ロクスだってそうじゃないのか?」

ロ 「俺は・・・。 父君と同じ 王族専任の護衛隊長になることしか考えていない」

シ 「王族専任っ!? そ、そうか。 でも ロクスならなれるかもな」

ロ 「当然だろ。 その為に 俺は今ここにいる」



剣を交え 互いの目標を話す二人。

まずは隊長。 まだ目先の目標しか見えないシギュマに対し

ロクスはすでに自分のあるべき場所を見定めたいた。 

並大抵のことでは 王族専任になるのは不可能に近い。 

人が聞けば それは夢物語というかも知れない。

だが シギュマはロクスの中に その可能性を確信していた。

生粋の剣士であるロクスに シギュマは自分だけ置いて行かれそうな気持ちになり

そして目に見えない距離を感じた。











それから 2年後――――――



ロクスは言葉の通り サラシャ姫の専任護衛隊長に任命された。

ラブチュ王国建国以来の異例な早さ そして15歳という若さでの就任。



国王 「いろいろと苦労をかけると思うが よろしく頼むぞロクス」

ロ  「はい。 その信頼に背くことないよう 忠誠を誓い全てを尽くします」



国を挙げて行われた就任の式典には もちろんシギュマも参列した。

遠くに見えるロクスの姿。

それはまるで 本当に専任護衛隊長になったロクスと 今のシギュマとの距離のようだった。



式典が終わり夕刻になると 新たな護衛隊長の披露も兼ねて 国中でパーティーが行われた。

パーティーの中 騎士団や国民が ロクスに祝いの言葉をかける。

それに答えながら ロクスは溢れる人の中でシギュマの姿を探していた。



ロ 「シギュマ。 こんな所にいたのか」

シ 「あぁ。 就任おめでとう ロクス」

ロ 「ありがとう。 シギュマに言われると照れくさいな」

シ 「なんか こうして見ると別人みたいだな」

ロ 「そうか? 別に何も変わってないけど」

シ 「いや。 ぜんぜん違うって」



国王から与えられた護衛隊長専用の衣服と武器に身を包んだロクスは

いつも一緒に剣の稽古をしていたロクスとは違う。

特別な使命を与えられた 姫にとってなくてはならない存在。



シ 「やっぱ凄いよ ロクスは。 いやロクス隊長」

ロ 「急になんだよ。 変に改まって。 シギュマはいつも通りロクスと呼んでも・・・」

シ 「もう そういうわけにもいかないさ」

ロ 「けど 俺達が親友なのには変わりないだろ!?」

シ 「それは そうだけどな・・・」



だけど 互いの立場には歴然とした差がある。



心の中で そう呟くシギュマ。 劣等感を抱かずにはいれない。



シ 「これからは忙しくなるだろうし 会うことも少なくなると思うけど 頑張れよな」

ロ 「シギュマも自分の目標に向かって頑張れよ。 ・・・っと、父君が呼んでるようだ。
   じゃ そろそろ行くな」

シ 「あぁ。 しっかり姫様を お守りしろよ」

ロ 「当然だろ」



振り向きざまに力強い笑みを見せたロクスは もう立派な護衛隊長の顔をしていた。

そんなロクスの背を見送るシギュマは

自分の目標とは・・・? そう自分に問いかける。

まずは騎士団隊長? じゃあ その先は?

違う。 自分が望んでいるものは そんなものじゃない。



俺はロクスと対等でありたい。 ロクスの隣で 同じ高さでものを見たいんだ。

そして シギュマは一つの決心をした。









それからロクスは 護衛隊長の心得を学び サラシャ姫の護衛に寝る間もない程

目の回るような毎日を繰り返していた。

そして 任務中に負った怪我の回復が 長期間かかったこともあり

就任の式典から丸一年 ロクスとシギュマは顔を合わすことがなかった。









そんなある日 サラシャ姫に付いて騎士団の訓練風景を見学に来たロクス。

久しぶりにシギュマに会えると思っていたが 騎士団の中にシギュマの姿が見えない。



騎士 「ご苦労様です。 ロクス隊長。 良ければ剣の稽古をつけて頂けませんか?」

ロ  「いや。 今日はサラシャの見学に付いて来ただけなので・・・。
    それよりも シギュマの姿が見えないが 体調でも崩しているのか?」

騎士 「シギュマなら 騎士団を辞めましたよ? お聞きになられてないんですか?」

ロ  「辞めた・・・!? シギュマが・・・?」



ずっとシギュマに会ってないロクスには 当然それを知るよしもない。

あのシギュマがなぜ 辞めてしまったのか。 何か理由があってのことか。

ロクスの頭は困惑するばかりだ。



ロ 「サラシャ。 すまないが少し時間をもらっていいか?」

サ 「ん? 別にいいけど」

ロ 「用が済んだらすぐ戻る。 それまでここでじっとしていろよ」

サ 「はぃはぃ〜」

ロ 「・・・間違っても 騎士団の練習に混ざろうとか思うなよ!
  (剣を持たせたら何をしでかすか わかったもんじゃない)」

サ 「ちぇ。 バレバレかぁ。 じゃ ぉ馬さんに乗ろうっと♪」

ロ 「それもダメだ! 一人で乗馬など以ての外だ!」

サ 「もぅ。 わかったわよ。 それじゃ じっとしている以外何もないじゃない」

ロ 「(だから 最初からそう言ってる・・・ 泣)」





不安を残しながらも 城内にあるシギュマの部屋へ走るロクス。

勢いよくそのドアを開けると そこには大量の本に囲まれ 机に向かうシギュマがいた。



ロ 「シギュマ!」

シ 「ロ、ロクス!? いや ロクス隊長 何故ここに?」



突然のロクスの訪問に驚くシギュマ。

慌てて立ち上がると 高く積まれた本が バサバサと音を立て机から本がなだれ落ちた。



ロ 「何故もくそもない! 騎士団を辞めたっていうのは本当なのか?」

シ 「そのことか・・・。 あぁ 本当さ」

ロ 「本当さって 自分の目標は!? 捨ててしまったとでも言うのか!?」

シ 「久しぶりに会えたんだし まぁ そうカッカするなよ。
   目標は捨てたというわけじゃない」

ロ 「じゃあ 何故ッ!」

シ 「俺には 剣よりもこっちのほうが向いてると思ってな」



そう言って シギュマは散らばり落ちた本を拾い上げ

一冊一冊 確認するように手に取って 机の上に戻していく。

えらく落ち着いたシギュマに さっきまで激情していたロクスも黙ってそれを見ていた。



シ 「俺は 医学 物理学 魔法学 天文学・・・
   この世のあらゆる学問を身に付けようと思ってる。
   そして いつか王国の中枢を支える存在に・・・ 王族に携わる使命を受けたい。
   ロクスと肩を並べ この王国に尽くしたい。 それが 今の目標だ」

ロ 「シギュマ・・・」

シ 「これで納得してもらえか?」

ロ 「・・そうだったのか。 シギュマの父は 王国の司祭。
   幼い頃から本に囲まれ生活してたシギュマには それが天職かも知れないな」

シ 「あぁ。 幼い頃から剣を握っていたロクスの天職が 護衛隊長であるようにな」

ロ 「声を荒げてすまなかった」

シ 「全くだ。 護衛隊長ともあろう奴が」

ロ 「だ、だから悪かったって言ってるだろう!」



一年ぶりに顔を会わた二人に やっと笑いがこぼれた。

が、そんな時間もつかの間。



シ 「なんか 外が騒がしくないか?」

ロ 「そう言えば・・・。 はっ!! ま、まさか・・・。」



二人一緒に窓の外を見ると そこには見事にロクスの不安が的中したサラシャ姫の姿。



サ 「ひゃっほ〜ぅ!」

騎士 「ひ、姫様! 危険でございます! 降りて下さい!! 誰かー 姫様を止めろー!」



ロディオ状態で馬に乗るサラシャ姫に その周りで慌てふためく騎士団隊員達。



ロ 「あれほど じっとしてろと言ったのに!」

シ 「は、早く行ったほうがいいんじゃないか?」

ロ 「あぁ。 また今度ゆっくり話をしよう。 じゃあなシギュマ 頑張れよっ!」

シ 「そっちこそ 頑張れよ。 護衛隊長」



 









そして その2年後。 シギュマは博士の称号を得て その博識を買われ

国王よりサラシャ姫の教育係りという使命を仰せつかった。



国王 「手を焼くと思うが 立派な姫になるよう教育をよろしく頼むぞ シギュマ」

シ  「はい。 己の全てを尽くし 必ずそのご期待に応えて見せます」



その夜 ロクスはシギュマのもとを訪れた。



ロ 「シギュマ 起きているか?」

シ 「あぁ。 どうしたんだこんな時間に?」

ロ 「遅くにすまないな。 差し支えないなら これで一杯やらないか?」

シ 「おっ。 いいな」



ロクスが持ってきた酒を見せると 明日から始まる教育に備え 本の整理をしているシギュマは

その手を止めて テーブルにグラスの用意をする。

今日の日の為に取り寄せた一級品だ。 そう言い ロクスは静かに酒を注いだ。



ロ 「では シギュマの就任を祝って 乾杯」

シ 「その前に 礼を言わせてくれ」

ロ 「礼?」

シ 「こうして就任出来たのも ロクスのおかげだからな。 ありがとう」

ロ 「俺の? 何もした覚えはないが」

シ 「まぁ いろいろとだ。 とにかく感謝してるってことさ。 俺は良い親友を持ったってな」

ロ 「それは お互い様だろう」

シ 「ロクス。 これからはお互い姫様に仕える者同士。
   姫様を守り支え 共に姫様の為にあろう」

ロ 「あぁ。 それこそ俺達が望んだ道…。 そして ラブチュ王国の柱となろう」



二人は変わらぬ友情を盃に 誓いという酒をを酌み交わした。







その後二人は 王国が誇る 武のロクス 智のシギュマとして

その名をうたわれることになる・・・。