〜 紫の章 〜



平穏なラブチュ王国が 今深刻な危機にさらされていた。





原因不明の疫病が広がり 国民の半数が感染し それ以上感染者を増やさない為にも

治療薬が出来るまで 国は厳戒体制を取った。



隙を見ては城を抜け出すサラシャの護衛も 当然必要以上に厳しくなり

俺は いつもより早くサラシャの部屋を訪れた。



ロ 「サラシャ ロクスだ。 入るぞ」

サ 「うん。…どーぞ」



心なしか サラシャの返事に元気がなかった。

部屋に入ると まだカーテンも閉まっており サラシャもベットで寝たままだ。



ロ 「まだ 寝ていたのか?」

サ 「体がダルイ…。 ほら美人は低血圧が似合うっていうし…」

ロ 「何をわけのわからんこと言ってるんだ。 いいから もう起きろ」



俺はカーテンを開けて 朝日を取り込む。

いつもより早く来たとはいえ こんなことは初めてだ。

わけのわからん発言は毎日のことだが やはりその声にも活気を感じなかった。



いまだ起きる気配のないサラシャの様子を伺うと

顔が火照り苦しそうな息使いをしていることに初めて気付き

俺は慌てて その額に手を当てた。



ロ 「なんて熱だ。 いつから!?」

サ 「わかんない。 起きたらもうこんなだったもん…」

ロ 「他には? どこか痛むとか 吐き気とか 変わった様子はないか?」

サ 「んーん。 あ… しいて言えば 昨日の晩 酷く咳き込んだくらい・・ かな」



それを聞いて 目の前が真っ暗になる。



原因不明の感染症。 今 シギュマの研究でわかっていることは

潜伏期間は3日。 そして咳気が発病の引き金となり 激しい高熱に襲われる。

一見 風邪とも思える症状だか 安静をとらず放置しておくと……  死に至る。



サ 「ロクス…?」

ロ 「サラシャ よく聞け。 どういった経路かわからんが
   たぶん おそらく 疫病に感染している」

サ 「えっ…!? じゃあ 私 死ぬの?」

ロ 「いや。 感染したからといって死ぬと決まったわけじゃない。
   だが 死なないと断定も出来ない。 シギュマが今 懸命に調べているところだ」

サ 「そっか。 死んじゃう可能性もあるってことなんだ。 まぁ 美人薄命ともいうしね」

ロ 「馬鹿なことを言ってないで とにかく安静にしていろ。 今 水を持たせる」



嘘を重ねて 誤魔化すことも出来たはずだった。

しかし どんなことであれ 姫に偽りを話すのは 護衛隊長の心得に反する。

それに 状況を把握させ 自分の症状を自覚することが必要であると思った。

サラシャは動揺を見せることなく 落ち着いた様子だったが

余計な心配をかけさせないためだったのだろう。

そんな俺も 冷静を保つのに精一杯だった。





部屋を出ると 一目散にシギュマのいる研究室へ向かい

ぶち破る勢いでドアを開ける。



ロ 「シギュマ 大変だ!」

シ 「あぁ! 大変なんだロクス! たった今研究の結果でわかったんだが
   この疫病… 発病して早ければ3日で死に至る!」

ロ 「な… なんだって…!? それは 本当か?」

シ 「このままだと どんどん犠牲者が増えて行く。 早く何か手を打たなくては!」



薬品を混ぜあわせた 何本もの試験管を振るうシギュマは

俺を見る余裕もない程 慌しかった。



ロ 「……サラシャが …感染した」

シ 「なっ!? ひ、姫様が!?」



しかし 俺の一言で動きが止まり その手から滑り落ちた試験管が

事態の衝撃を表すかのように 高い音を立てて床に割れ散らばった。



シ 「一体何故!? どうやって感染したというんだ?」

ロ 「わからない。 外部との接触は遮断していたはずだ。
   それに 食べ物や身に付けるものも 徹底して注意をはらっていた」

シ 「ロクス。 わかっていると思うが 感染経路はおろか
   感染の元が判明しないと 治療薬は作れない」

ロ 「あぁ。 早く原因を突き止めなくては…」

シ 「姫様が感染したとなると 城内に他にも感染者がいるかも知れない。
   調査する必要がありそうだな」

ロ 「そうだな。 俺も手伝おう」

シ 「よろしく頼む。 それと もう一度この数日で何か変化のあったものはないか
   姫様の身辺を調べ直してくれ」

ロ 「わかった。 サラシャの部屋に出入りした者にも話を聞いてくる」



焦りと不安の色を隠せないまま 研究室を出ようと背を向けると

シギュマは力強く 俺の肩を掴んだ。 その手からは熱い決意が伝わってくる。



シ 「大丈夫だ ロクス。 姫様は絶対に死なせはしない」

ロ 「当然だ」







再びサラシャの部屋に出向くと 丁度メイドが水を持ってきたところだった。

サラシャは あれからまた眠ってしまったようだ。

それはいいんだが 事前に聞いていた担当のメイドと違ったのが少し気になった。



ロ 「ご苦労だったな。 あとは俺がやろう」

メ 「あ、はい。お願いします。 ロクス隊長にも何かお持ちしましょうか?」

ロ 「いや 大丈夫だ。 それよりも 今日の担当者はどうした?
   勤務に変更があるときは 報告してもらう規則になっているはずだが」

メ 「す、すいません。 今週の担当者が今朝 熱を出しまして
   急な交代だったものですから…。 以後 気をつけます」



熱を・・・?

その時 直感的なものが走った。



ロ 「そのメイド。 何か言っていなかったか? この部屋で変わったことがあったとか」

メ 「いいえ。 別に何も。 普段と変わりなくお仕えしていたようですけど」

ロ 「ちょっとしたことでもいいんだ。 何か聞いてないか?」

メ 「あ、そう言えば。    庭師が見かけない花が庭園に咲いたと持ってきたのですが
   どうやら異常発生してるらしいんですけど
   それを姫様にお持ちしたら 大変喜んでもらえたと言っておりました。
   でも 変わったことでも何でもないですよね。 すいません」

ロ 「そうか わかった。 ありがとう」

メ 「では 失礼致します」



メイドが出て行くと 窓際に置かれたその花に視線を移した。

確かに あまり見かけない花だ。

サラシャも 自分で花瓶の水を替えるくらいに気に入っていたことは 俺も知っている。



・・・・ まさか!?



メイドもサラシャと同じように発熱した。

ただの偶然だとは考えにくい。 疫病に感染したと考えるほうが賢明だ。

ならば この花が元凶か!? しかし・・・ いや 考えてる暇などない。









俺の直感は正しかった。

シギュマにその旨を伝え 半信半疑だったものの 花を調べてみると

それが疫病の感染源だということがわかった。



シ 「ビンゴだ ロクス。 これで治療薬の研究に取り掛かることが出来るぞ」



だが 安心したのもつかの間。

前例のない感染病に 感染源は見たこともない花。

シギュマが医学に秀でているとはいえ 治療薬を作るにも そう簡単にはいきそうになかった。

城の庭園や 城下町に発生している花の除去は 騎士団に任せ

俺達は 治療薬の手掛かりを探す為 国王の許しを得て 【極秘資料室】へと足を運んだ。



シ 「植物関連の資料を探せば 何かしら鍵となる物が見つかると思うが・・・」

ロ 「わかった。 手分けして探そう」



決して狭くはない資料室で 隈なく本に目を通すのは容易ではなかったが

サラシャの命がかかってる以上 そんなことは言っていられない。

そして 願いにも似た思いで一昼夜探し続け 朝日が昇り始めた頃・・・・・・



シ 「あったぞ ロクス! これだ!」

ロ 「これで 治療薬が作れることが出来るのか」

シ 「あぁ。 もう安心していいぞ。 後は俺に任せておけ」



その言葉を聞き 張り詰めていた糸が切れ 安堵と共に肩の力も抜けた。

これでサラシャも 感染した国民も助かる。



ロ 「では 早速治療薬の開発に当たってくれ。 ここの片付けは俺がしておく」

シ 「わかった」



シギュマが極秘資料室を後にすると

俺は一息つき 散乱してしまった本を片付け始めた。



ロ 「やれやれ・・・だな」



肩の荷が下りたと言うには まだ早すぎかもしれないが

焦りと不安から解放されたのは確かだった。

後は 治療薬が出来るのをただ待てばいい。 そう思うと気持ちにも少し余裕が持てた。

これが終ったら アイスでも買ってサラシャの様子を見に行くか。

そんなことを考えながら 片付けをしていると えらく古びた背表紙の本がふと目に留まった。



ロ 「なんだ? この一冊だけ随分とくたびれているな」



おもむろにその本を取り出して やけに分厚い表紙を開くと カツンと音を立て何かが床に転がり

開いた表紙の裏には 何を入れるようなくぼみがあった。



ロ 「ここから落ちたのか。 石? いや、宝石か?」



足元にあるそれを 本に戻そうとして 拾い上げると

それは俺の手の中で 急に紫の輝きを放ち始めた。



ロ 「こ、これは一体!? 」



わけの分からないまま 開いた本に目を通すと そこには古代文字で

更に驚くべきことが書き綴られていた。

世界の終わり。 闇。 トン・ソォーク。 輝勇石。 虹色の剣。 勇者。 封印。 復活。

著者の名は 紫の戦士セリウス。 刻印は1000年近くも前。

これは 作られた物語ではなく 実際にこの世界で起こった出来事 言わば伝記だ。

では これは!? 今 俺が手にしているものは紫の輝勇石という事なのか!?





本に書かれていることの全てを 信じることはまだ出来なかったが

もしもということもある。

それに 俺が拾い上げた石が輝いている事実からいって

全てを否定することも出来ない。

このままやり過ごすわけにはいかないだろう。

何より気になったのは・・・・・・

この本を読んだ瞬間 当たり前のように とある記憶が蘇ったことだ。

それは 高名な預言者の言葉。



「1」の並ぶ月日に生を受けし者。

のちに旅立ち6つの光を導くであろう。

そして 闇の支配を打ち砕く力を手に入れ

この世を救う勇者と成り賜わらん。




この本と 予言の言葉を照らし合わせると 一つ重大なことが見えてくる。

・・・・・・・・サラシャの誕生日は A.L.1111年1月11日。



俺は 手にした本と輝勇石を持ち 国王の間へ向かった。









ロ 「ロクスです。入ってもよろしいでしょうか?」

国 「うむ。 構わんぞ。 入れ」

ロ 「失礼します。 国王、少しお話したいことがあるのですが」

国 「どうした? 疫病のことか? 何か進展があったのか?」



そうだった。 まずは 疫病のことを報告せねば。



ロ 「疫病は【極秘資料室】で それに関する資料を見つけることが出来ました。
  今 それを元にシギュマが治癒薬の開発をしております。
  このままシギュマに任せておけば 大丈夫でしょう」

国 「そうか。 そなた達の口から大丈夫だという言葉が出たなら わしも安心じゃ。
  これで ラブチュ王国は救われも当然だな。 大儀であった」

ロ 「それから もう一つ・・・」

国 「何じゃ? 他にも何かあるのか?」

ロ 「【極秘資料室】で これを見つけました」

国 「どれどれ」



国王は 俺が差し出した本と石を受け取り しばらくその本に目を通すと

何か覚悟を決めたように 俺に話しかけた。



国 「ロクスよ。 お前はまだ幼かったから覚えておらんかも知れぬが
  昔 我国に訪れた預言者がいてな」

ロ 「いえ。覚えています。 そして その預言者の言葉も」

国 「そうか。 なら お前のことだ。 もうおおよそのことは飲み込んでいるだろう」

ロ 「では やはり サラシャが世界を救う勇者だと」

国 「あぁ。 わしはその予言を聞いた時から確信しておった」

ロ 「しかし それだけで全てを鵜呑みにするわけには・・・。
  これは国だけでなく 世界規模な問題です。もっと確証を得てからでないと。
  それに トン・ソォークなんて魔物の話など 聞いたことがありません」

国 「そうだな。 だか だかといってこのまま何もしないわけにいかんだろう。
  本当にトン・ソォークが復活するのか しないのか。 それはいつなのか。
  わからないことは多いが 万が一のことを考え 今からその日に備えておくことは必要だ」

ロ 「サラシャには 何と言えば・・・」

国 「いや。 サラシャには まだこのことは伏せておく。
  サラシャには 十分な知識 技術を付けてもらい 精神力も成長させねばならん。
  そのためには ロクス。 そしてシギュマに今以上に苦労をかけると思うが・・・」

ロ 「その心配はご無用。 苦労は 今に始まったことではありません」

国 「それもそうじゃな。 天晴れじゃ わが娘」



そこは 感心するところなんだろうか・・・・・・・。(汗)



ロ 「国王のお考えはわかりました。
  トン・ソォークの復活を想定内に 自分が勇者だと受け入れる器を持てるよう
  姫様教育の一環として取り入れ 努めます」

国 「くれぐれも サラシャには知られんようにな。
  それと このことじゃが王族直属に当たるものと 騎士団隊長の耳には入れておこうと思う」



不幸中の幸いか サラシャが 床に伏せている今なら

サラシャには知られることなく 機密会議を開くことが出来る。



ロ 「では 早速召集をかけます」



一礼をし 国王の間を去ろうとすると また国王から声をかけられた。

いつになく神妙な声に 俺は振り向く。



国 「ロクス。 サラシャが勇者であることと同時に そなたも輝勇石の戦士ということになる。
  突然のことで そなたも多少なりとも 困惑しているだろう。
  それなのに そなたにだけ いきなりこの荷を受け入れるような形になってすまない」

ロ 「そのお言葉 有難く頂戴します。
  ですが国王。 俺は輝勇石の戦士である前に サラシャの護衛隊長です。
  受け入れるも何も 俺が成すべき事はサラシャを守ること。
  それに変わりはありませんから」

国 「・・・頼もしい限りだな。
  ロクスがこの本を見つけ 輝勇石を手にしたのも 運命が導いたのかも知れんな」

ロ 「ならば その運命に感謝するまでです」

国 「それを聞いて わしも安心じゃ。
  サラシャのことはそなたにしか 全てを任せられんからの。
  これからも サラシャを頼んだぞ ロクス」

ロ 「御意」





その後 機密会議が開かれ その時期が来るまで 一切情報が漏れぬよう

厳重な注意を払うよう 国王より命令が下った。



疫病のほうは シギュマが治療薬を開発し 無事解決することが出来た。

サラシャの体調も回復し 王国にも元の平穏な日々が戻った。



いつかこの平穏が崩れる日が来るかも知れない。

そんな心懸かりを抱きながらも 平和な日がずっと続くよう願った。

















そして ロクスが護衛隊長になり10年経った今――――――



その願いはもろくも砕け サラシャの成長より早く 闇の支配者が復活した。

焦ってはことを仕損じかねないと 慎重を重ねるが 時間は待ってくれない。

そんな歯痒さの中 サラシャに全てを話す時期を伺う国王の命が下りることだけを待ち

ロクスはシギュマと共に 日々の教育に努めていた。





シ 「ロクス。 姫様を見かけなかったか? そろそろぉ姫様教育の時間なんだが」

ロ 「もうこっちに来てるものだと思っていたんだが。 またか・・・」

シ 「城下街に行ってるのなら 早く連れ戻してきてくれないか?」

ロ 「いや。 今日は城から出ていないはずだ。 城内のどこかにいるだろう」

シ 「あまり姫様を拘束するなよ」

ロ 「拘束とは 人聞きが悪い。 最近 妙にサラシャに懐いた街人がいるのでな
   間違いが起きないためにも少々の厳しくあたるのは当然だ。
   シギュマも教育係りなら もっと・・・」

シ 「わかったわかった。 その話は後で聞くとして
   とりあえず姫様を連れて来てくれ。 ロクス

ロ 「了解。 シギュマ







シギュマと別れ ロクスは相変わらず手が掛かる姫だと 軽くため息をつき 城内を探し歩く。



サラシャが あの本を開いているとは 知らずに・・・・・・・・・。