〜 多大な犠牲 〜



城の中で負傷者の手当てをしていたサラシャは

いきなり鳴り響いた爆発音に驚き それが何かを確かめるべく窓から外の様子をうかがった。

目の前に広がっているのは 赤く染まった空。

そして 黒く群がっている魔物。



「な 何? どうして!? 魔物は北じゃなかったの!?」



自分の知らないところで 一体何が起こっているのか・・・

こうしちゃいられない! 行かなきゃ!

そう思い一度は窓枠に足をかけたサラシャだったが

さすがにこの事態に一人で行動するのはまずいと判断して踏みとどまった。



今すぐ駆けつけたい気持ちを抑えて サラシャは負傷者の手当てに戻った。

城の中にいる者たちも 外の様子に不安の言葉を漏らす。

サラシャも同じように不安を感じていたが それを顔に出すことなく

一人一人に励ましの言葉をかけて回った。



何が どうなってるのよ。

確かに魔物は北から攻めて来ていた。

だからみんな北に向かった。 でも 南にも魔物が現れて・・・ 

挟み撃ち!?

そんなッ! 南に兵士はいないのに!!



もう一度 窓を振り返ると 兵士たちが民衆を連れて来るのが見えた。

何事と思い サラシャは城の門へと向かう。



サ  「どうしたの貴方たち!? 魔物は!?」

兵士 「ヒヨ王子から撤退命令が出たのです。」

サ  「撤退? どうして!?」

兵士 「理由はわかりませんが 何か策があるご様子でした。」



民衆を避難させても この状況で兵士まで撤退させるなんて。

それじゃ 街が魔物達に破壊されるじゃないのよぅ。

どんな策があると言うの ヒヨ。



ヒヨの意図がわからず サラシャは空を見上げる。

すると すっごい速さで城の最上階に向かう飛空機が一機・・・



サ 「あれは ヒヨとレヴ。」



ヒヨとレヴの姿を確認したサラシャは 二人を追うように

最上階へと続く螺旋階段を駆け上って行った。









レ 「まさかコレを使うことになるとは。」

ヒ 「でも コレしか方法はない。」



最上階に到着したヒヨとレヴは手早くコレとやらを使う準備を行った。

轟々とうなりを上げ充填されるエネルギーは 1点に集中されてゆく。



レ 「もうすぐだぞ ヒヨ。」

ヒ 「わかってる。 フルパワーでぶっ放す!」



二人の間に迷いはなかった。あるのは悲痛を伴う決心のみ。

その二人の前に階段を駆け上って来たサラシャが姿を現した。



サ 「ヒヨ レヴ 一体 ゼィ 何を ハァ しようと ゼィ してるの? ハァ」

ヒ 「サラシャ・・・」

サ 「ソレは一体なに?」



最上階に設置されている機械と

ヒヨとレヴの表情を見たサラシャは嫌な予感がした。



レ 「これは俺たち二人が開発した 究極の破壊力を持つ兵器。」

ヒ 「いつかトン・ソォークにって作ったんだけど・・・
   これで 街ごと魔物を壊滅させる。」



自分たちの手で築き上げた街。 どこよりも発達した街。 そして愛した街。

でも それより大切なモノがある。

何を犠牲にしても 守らなきゃいけないモノがある。



それがヒヨの下した決断だった。

サラシャはそんなヒヨに何も言えなかった。否、言えるはずがなかった。

怒りと悲しみと 王子であるが故の辛さが痛いほどわかるから。



レ 「充填完了だ ヒヨ!」

ヒ 「わかった。リミッター解除モードオン!」

レ 「オン! 確認!!」

ヒ 「人の国を焼く報いを知れッ! 醜き魔物達!!」

ヒ&レ 「喰らいやがれっ! 中華キャノンギャリック砲!



ズドーン!!!



ものすごい音を立てて放たれたギャリック砲は

一瞬にして魔物を蹴散らし 街全体をふっとばした。

視界に映るもの全てが ユラユラと赤く揺れる。





ヒ 「これでまた僕は民衆達から怒りを買うね。」



自らの手で破壊した街を見て ヒヨは涙を流す。



サ 「ヒヨ。 人の上に立つものは涙を見せちゃいけない。
   それは民衆に不安を与えるだけだから ダメだってお父様に教わったわ。
   でも 今だけはその涙の意味をみんなわかってくれると思う・・・。
   あなたは立派なチキン王国の王子よ。」



そう言ったサラシャの瞳からも一筋の涙が零れ落ちた。







  


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