あれから幸いなことに 魔物に出くわすこともなく
無事にドラゴ王国に着いたサラシャとリュールは
南門をくぐり 活気溢れる城下町を歩く。
サ 「良かった。ドラゴ王国はまだ無事だったようね。」
リ 「らしいな。しかし・・・」
サ 「何? どうかした?」
リ 「いや 別に。」
確かに魔物に襲われた形跡は見られない。
自分たちの目の前を 笑いながら走って横切る子供たち。
洗濯物を干すご婦人。
家の壁塗りをしている家主。
脇にあるベンチに腰かけ 世間話をするご老人。
立ち並ぶ店で 声を張り上げ客寄せをする店主。
平和というものを 絵に描いたような光景にサラシャがそう思うのは当然だった。
だがリュールは それがかえって不審に思えた。
どの誰を見ても 不安を感じている様子を見受けられない。
ドラゴ王国にどれだけ魔物に対する武力があるのか知れないが
少しは不安を感じるものだと思うが・・・。
そう思ったが口には出さずに リュールは黙ったままサラシャの後を歩いた。
城下街を抜けると 高い塀に囲まれた城が見えた。
正面にある扉の両脇には番兵の姿があったが
二人はそれに臆することなく門の前まで進む。
サラシャが番兵に話しかけると 番兵は敬礼をしてそれに答えた。
サ 「ラブチュ王国のサラシャです。マオンに会いに来ました。通して頂けますか?」
兵 「サラシャ姫。ようこそ おいで下さいました。」
兵 「どうぞ お通り下さいませ。」
通常では堅い警護のもと 開かない重い扉が
サラシャを迎えてゆっくりと左右に開く。
リ 「顔パスかよ。 さすがだな。」
サ 「たまには姫らしさも見せておかないとね。
ほら 自分でもお姫様ってことを忘れると困るし。」
リ 「って、忘れんなっ! 仮にも主人公だろうが。」
ほんとにコイツは 姫なんだかどうなんだかよくわからない。
何の不自由もなく ぬくぬくと温室育ちをした奴はこんなもんか・・・
そう思いながら サラシャの後に続き門を抜けるリュール。
ギィーと門扉が閉まる音に振り向くと その隙間から二人の番兵が
ニヤリと笑みをこぼすのが見えた。
リ 「・・・・? なんだあの笑みは。」
サ 「なんか言った? リュール。」
リ 「さっきの番兵・・・ 怪しくないか?」
サ 「どこがどう怪しいのよ? ドラゴ王国に対して失礼よ。」
リ 「妙な笑みを浮かべてたぞ。」
サ 「そりゃ誰だって喜怒哀楽があるんだから笑うわよ。」
リ 「そーじゃなくってだな! あー もういい。面倒くせぇ。」
能天気なサラシャに言っても無駄だと思い 脱力感を覚えるリュール。
まぁ 城の中に入ってしまえば安全だとは思うが・・・。
そして あのお世話係り・・・ いろんな意味でたいした奴だな。
そう思った。
城に入ると 女中が一礼してサラシャとリュールと迎える。
女 「お待ちしておりました サラシャ姫。 どうぞこちらへ。 案内致しますわ。」
サ 「えぇ よろしく。 ところで マオンは元気?」
女 「もちろんです。 マオン姫もサラシャ姫に会いたがっておられましたよ。
ご無事に到着されて何よりです。 何でも 東の森で魔物に襲われたとかで。」
サ 「そうなのよ。あれには参ったわ。」
女 「ロクス様達も ご無事だといいのですが・・・。」
サ 「ってことは ロクス達はまだここには来てないってことかぁ。
おっそいなぁ 何してんだってばよ。」
リ 「・・・・・・・。」
ヒヨがあんなにも落ち込んで 皆がサラシャの心配をしてたのに
当の本人はこんなもんです。
女中に案内され 通された大広間には食事の用意がされており
勧められるままに二人は席に着いた。
マオンを呼んで来るからと女中が部屋の外に出たのを確認すると
今まで黙っていたリュールが 向かい合って座るサラシャに小声で話しかける。
リ 「サラシャ。どうも胡散臭い気がしてならない。」
サ 「何よ。 まだそんなこと言ってるの?」
リ 「いくらなんでも情報が早すぎる。」
サ 「魔物に襲われたこと?」
リ 「あぁ。 それに城の中にいた者たちの俺たちを見る目つきが妙だ。」
サ 「それは 私が久しぶりにここに訪れたからさ あれよあれ。」
リ 「あれ?」
サ 「んま〜、サラシャ姫ってばお綺麗になられて・・・ とかさ。」
リ 「・・・・(どうツッコんだらいいんだ・・・ 汗)
と、とにかくだな マオン姫に会うまでは気を許すなってことだ!」
サ 「うん。まぁ気をつけとく。 あ、ほら飲み物が来たよ。」
飲み物を持って部屋に入ってきた女中に どうぞと促され
サラシャがグラスを手にした瞬間だった。
女中の手に飛んできたフォークが突き刺さる。
女 「ウグッ。」
リ 「何のつもりだ?」
立ち上がり女中を鋭く睨み付けるリュール。
いきなりフォークなんか投げて むしろリュールのほうが
何のつもりよと思ったサラシャだったが・・・
女中の袖口にキラリと光るものを見つけた。
サ 「毒針・・・!?」
サラシャが女中の隠し持っていた毒針に気付き後ずさると
女中が形相を変えて サラシャに飛びかかった。
サ 「キャー!」
床に上から押さえつけられ 一応女らしい悲鳴を上げたサラシャは
リュールが助けに入るよりも早く 「お姫様教育 第29項:柔よく剛を制す」で
学んだ巴投げを炸裂させた。
女中はそのままぶっとんで 壁に直撃。
そして 頭から血を流し起き上がることはなかった。
サ 「ビ、ビックリしたぁ。なに・・・ どういうこと・・・?」
リ 「大丈夫かよ? てか、お前なかなかやるな。」
サ 「ありがとリュール。 私もう少しで毒針に・・・」
リ 「あぁ。 そんなことより 見てみろ。」
リュールはサラシャの手をとり 引っ張り起こすと
倒れている女中から流れ出している血に視線を移す。
サラシャもリュールにつられ見てみると それは赤でなく黒い血だった。
サ 「こ、これは!?」
リ 「すでに人間じゃなかった・・・てことかよ。
たぶん おそらく城の者達全員・・・ いや、ドラゴ王国の者達皆・・・」
サ 「嘘!? だって街の人たち楽しそうに笑ってたじゃない!」
リ 「俺たちを油断させるための芝居だ。」
サ 「そんな・・・ じゃ、マオンは!? 」
リ 「・・・・とりあえずこの国を出るぞ。」
サ 「待ってよ! まだマオンに会ってないッ!」
リ 「わかんねぇのかよ てめぇは! この国はもう魔物の手に落ちてるんだぞ!」
リュールの怒鳴り声に身が硬直する。
認めたくない現実が一気に押し寄せる。
リュールは愕然と立ち尽くすサラシャの腕を引き 無理に歩き出すと
気味悪い笑い声が部屋に響きわたった。
カチ 「クックックッ。よく来たな サラシャ姫。
お前のご希望通りマオン姫に会わせてやろう。」
笑い声と共にサラシャ達の目の前に現われたのは あのトン・カチだった。
そして トン・カチの後ろから ゆっくりとマオンも姿を現した。
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