サ 「なぜ ロクスが・・・? いつから輝勇石を!?」
サラシャが珍しく険しい表情を見せる。
野営ポイントに着き火を囲んで 一旦は落ち着いたように見えたが
やはり心の動揺はまだ抑えることは出来なかった。
それは サラシャ以外の皆も同じ。
一緒に旅をしていたとはいえ まさかロクスが輝勇石の戦士だとは想像もしていなかった。
皆の視線を集め ロクスは目の前に揺れる炎を瞳に映し ゆっくりと口を開き始める。
ロ 「数年前 国に原因不明の疫病が広がったことがあったな。」
サ 「うん、あったね。 あの時はシギュマ先生が作った特効薬で助かったけど。
でも それと何の関係があるの?」
ロ 「その特効薬を作るため 俺とシギュマで何か手がかりはないかと
城の極秘資料室に入った時に 偶然にもあの本を見つけた。」
タ 「あの本って?」
ロ 「1000年前のトン・ソォークのことが記された本だ。」
フ 「俺とサラシャが見ていた あの本か!?」
ロ 「そうだ。その本と一緒に保管されていたのがこの石だった・・・」
その石は ロクスが手にしたとたん紫の輝きを放ち
何が起こったのかと驚いたが その本を読みこの石がその輝勇石ではないかと考えに至った。
そして ふと幼き頃 王国に訪れた高名な預言者の言葉を思い出した。
「1」の並ぶ月日に生を受けし者。
のちに旅立ち6つの光を導くであろう。
そして 闇の支配を打ち砕く力を手に入れ
この世を救う勇者と成り賜わらん。
国王はその予言を聞き何かを悟ったようだったが 当時のロクスには何も理解出来なかった。
だが 何か大事なことを意味しているのだろうと記憶には留めてあった。
闇の支配とは・・・ トン・ソォークの復活を意味している。
6つの光は 6色の輝勇石のこと。
そして 何より「1」の並ぶ月日に生を受けし者とは・・・。
ロクスはすぐさま国王へ報告に上がり その本を元に 王国では機密会議が開かれた。
そして ことの重大さを受け止め その時期が来るまで他言は無用。
王国の中でも限られた者にしか 伝えられなかった。
ヒ 「その時期とは・・・?」
ロ 「予言の中で言う 勇者が旅立つ時だ。だがそれが予定よりも少し早まってな・・・。
それに これが本当に輝勇石なのだと確証を得てからという思いもあり
なかなか言えずにいた。」
フ 「もしかして 魔女の洞窟でミャカと話してたのはそのことだったのか?」
ロ 「あぁ。」
フ 「なんだよ だったらなんでその時に教えてくれないんだよ!?
てか 俺はともかくサラシャが知らないのはおかしいじゃん。
なんでその限られた者の中にサラシャが入ってないんだよ? お姫さんだぞ!」
リ 「ふっ。 わからないのか? お前 仮にもサラシャの恋人だろう?」
今まで黙って聞いていたリュールが 静かな物腰で煙草に火を付けそう言った。
フ 「仮にもって失礼だな! れっきとしただぞ!」
リ 「サラシャ。 お前の誕生日は?」
思わず立ち上がったフジールだったが リュールがサラシャに問いかけたことに
ハッと気付き そのまま視線をサラシャに移した。
サラシャは呆然としてリュールの問いに答えはしなかったが
それが逆に皆に確信させるものとなった。
ロ 「わかっただろう? サラシャがこの世の平和を担うトン・ソォークを倒す勇者だ。」
サ 「私が・・・。 でも、そんなの偶然かも知れないじゃない。
生まれたのがA.L.1111年1月11日の人なんて他にいるかも・・・。」
受け止めがたい運命に サラシャには似つかわしくもない弱気な表情を見せた。
ロ 「困惑するのはよくわかる。 だが その運命に背けば世界は闇に染まる。
おそらく向こうも気付いていることだろう。 だから俺は全力でサラシャを守る。」
フ 「俺も もっと強くなってサラシャを守ってみせる!」
タ 「そうよ サラシャ。 アタクシもついてるわ。」
ヒ 「みんなで一緒にトン・ソォークを倒そう!」
リ 「辛気臭い面してんじゃねぇっての。」
それぞれが思いのまま サラシャに言葉をかけた。
しかし サラシャは表情を変えることなくその場を立ち上がった。
サ 「・・・ごめん。 ちょっと向こうで頭冷やしてくる。」
ロ 「あまり遠くへは行くなよ。」
本来なら一人にさせるなんてこと以ての外だが 今だけはその気持ちを察し
ロクスはそうサラシャの背中を見送った。
フ 「サラシャ ビックリしてたな。俺も驚いたけど・・・」
ヒ 「無理もないさ。 突然自分の肩に世界の運命が圧し掛かるなんてこと知ったら。
それに いくら僕達がいたとしてもその重圧も相当なはず。」
ロ 「そうだろうな。 だが 甘いことは言っていられない。
世界のためにも そして自分自身のためにも正面から受け止め立ち向かわなければ。」
リ 「あとはサラシャの決意次第ってわけか。」
フ 「俺 ちょっとサラシャんとこ行って・・・」
タ 「待ってフジール。 アタクシが行くわ。」
心配して走り出そうとするフジールの腕を取り タトゥミは了解を得るように無言でロクスを見た。
そして ロクスもそれに無言で頷いた。
一人静かな場所で 考え込むサラシャ。
輝勇石を見つけ その戦士・勇者を探してトン・ソォークを倒す。
それなりの覚悟もしてこの旅出た。
しかし まさか自分がその勇者だったとは思いもしなかった。思えるはずもなかった。
そして自分にそんな力があるのか? 自分自身の手で世界を救うことが出来るのか?
そう考えると 重く圧し掛かる運命に不安と怖さで体が震えた。
そんなサラシャのもとにやって来たタトゥミが後ろから声をかける。
タ 「サラシャ 隣に座ってもいいかしら?」
サ 「あ・・・ タトゥミ。 うん、どうぞ。」
膝をかかえ座り込んでるサラシャの隣に タトゥミがゆっくり腰を下ろす。
タ 「どう? 少しは落ち着いた?」
サ 「ん〜ん。 いろんなことが一気に押し寄せて まだ頭の中がグルグルしてて・・・。
ちゃんと覚悟を決めてこの旅に出たのに 自分がってなると信じられなくって
どこかで他人任せな部分があったんだと思うと そんな自分が情けなくて・・・。
それにロクスが輝勇石の戦士だったってことも 驚いたし
私のためだとわかってっても ずっと隠してたんだと思うとやっぱショックだし。」
タ 「ロクスはロクスで辛かったと思うわよ。」
サ 「え?」
タ 「ぉ世話係り いえ 護衛隊長としてサラシャを守ると共に
輝勇石の戦士である自分の運命、そしてその勇者であるサラシャの運命を
誰にも気付かせることなく 一人で背負っていたんですもの。
でもね 今は違う。 アタクシ達がいるわ。 みんなでそれを背負うことが出来る。
今 自分がここにいることをアタクシは光栄に思うわ。
だから 一人で思い悩まないでサラシャ。 みんながついてるのだから。」
サ 「そう・・・だね。 一人じゃない。」
タ 「それにね 勇者とわかったからといって何も気負うことはないわ。
今までだってサラシャは十分に頑張ってきたもの。
国王様の手紙にもあったでしょ。自分の選んだ道を信じて力強く歩んで行け≠チて。
これからも今のままでいいのよ。
そしてアタクシ達がサラシャを守ることも変わりはないわ。」
タトゥミの言葉を受け サラシャはスッと肩が軽くなるのを感じた。
そして みんなの顔が頭をよぎり 新たに決意を固める。
サ 「ありがとう タトゥミ。」
タ 「さぁ みんなの所へ戻りましょ。 フジールが心配して待ってるわよ。」
サ 「うん!」
いつもの自分を取り戻したサラシャを見て タトゥミは立ち上がり手を差し伸べる。
サラシャは元気に答えると その手を取りタトゥミと歩き出した。
タ 「そうそう。紫の輝勇石はね【忠誠】の意味を持つの。 ロクスにぴったりね。」
サ 「本当だね。」
王国に対する思い 護衛隊長としての任務。まるでロクスを象徴するかのような輝勇石の意味に
サラシャは姫として誇りに思い 感謝を感じながらそっと笑みをこぼした。
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