その後 全ての魔物を倒し皆がテントに戻って見たものは
意識を失い 血で赤く染まったサラシャの姿だった。
タ 「サラシャ! どうしたの!? 一体 何があったの!?」
ロ 「話は後だ。 応急処置は施したが・・・ とにかくまず治療を。 」
タ 「アタクシがやるわ。 殿方は外に出ていて下さる?」
ロ 「あぁ。 よろしく頼む。」
タトゥミに治療を任せ外に出ると 一人だけ外で待っていたフジールが
うなだれた様子で 座り込んでいた。
ロ 「立て フジール。」
フジールが力なく立ち上がると その頬にロクスの拳が飛んだ。
転がるように地面に倒れたフジールにヒヨが駆け寄る。
ヒ 「大丈夫か フジール? いきなり何てことをするんだ ロクス!」
フ 「いいんだ・・・ ヒヨ。 これくらいサラシャの痛みに比べたら・・・。」
ロ 「あの時 目の前にいるサラシャを何故助けなかった?」
リ 「どういうことだ? 話がよく見えないんだが。」
フ 「魔物に殺られそうだった俺をサラシャが助けてくれて・・・。
それで 治癒をしてもらってる時に 今度はサラシャが魔物に・・・。」
ロ 「サラシャは危険とわかっていてお前を助けに向かったんだ。俺を振り切ってまでもな。」
ヒ 「そんなことがあったのか。」
フ 「お、俺だって俺なりに頑張っていたさ!」
ロ 「なら どうして何もしないままでいたんだ!」
リ 「頑張っても 守りたいものを守れなきゃ意味がない。
まぁ これはフジールだけに言えたことじゃないけどな・・・。」
フ 「わかってる・・・。わかってるけど 体が動かなかったんだよっ!」
ロ 「・・・・話にならない。 この旅に足手まといになる者 ましてやサラシャに危害を
及ぼす者をそばに置いておく訳にはいかない。この意味がわかるか?」
フ 「・・・・・・・・。」
ヒ 「ロクス それはっ・・・。」
ロ 「ドラゴ王国で サラシャのために強くなれとお前に言ったが もう何も期待しない。
フジール お前は無力だ。」
冷たく言い放つロクスに フジールはおろか その場にいたヒヨとリュールも
何も言えなかった。
そして フジールは唇をかみ締め 暗闇の中へと走り去った。
ヒ 「フジール! 何処へ行くんだ!?」
ロ 「放っておけ。」
リ 「あぁ 一人で考える時間が必要だろう。」
ヒ 「だけどさ あんまりだよ。 サラシャが傷ついて今一番辛いのはフジールなのに・・・。
僕は放っておけない!」
そう言ってヒヨはフジールを追って 暗い森の中へと入っていった。
そこへ入れ替わるように サラシャの治療を終えたタトゥミがテントから出てきた。
ロ 「サラシャの様子は?」
タ 「血は止まったわ。 包帯をきつく巻いておいたけど 化膿しないためにも
こまめに取り替えたほうが良さそうね。
呼吸も安定してるし あとは意識が回復するのを待つだけ。」
ロ 「そうか。」
タ 「それにしても 随分な言い方ね。」
ロ 「聞いてたのか。 ・・・・本当のことを言ったまでだ。」
タ 「それはそうかも知れないけど 何もあそこまで言う必要はないんじゃなくって?
あれじゃ フジールは・・・・」
リ 「おそらく もうここには戻ってこないな。」
静かに煙草に火をつけるリュールに 言葉なく頷くタトゥミ。
ロ 「それでいい。ここにいても迷惑なだけだ。」
リ 「あぁいったタイプは甘やかすより 突き放したほうがいいからな。
何も期待しないと言ってたが 逆だろ?」
タ 「じゃあ わざと? でもそれは 酷く危険な賭けじゃなくって?」
リ 「何だかんだいって あいつが強くなるってことを信じてるんだろう?」
ロ 「さぁな。 話はこれくらいだ。 俺はサラシャを見てくる。」
これ以上 何も言うことはないと テントへ入ろうとするロクスに
タトゥミが 言葉をかける。
タ 「ロクス 一つ言っておくけど この旅でフジールが
サラシャの精神的支えになっていたのは 間違いないわ。
フジールがいなくなったことを知ったら サラシャは何て言うか・・・。」
ロ 「それは 覚悟している。」
それだけ言って ロクスはテントへと入る。
タ 「自ら悪役を買って出た・・・ってわけね。」
リ 「あぁ。 それに フジールだけじゃなく 自分のことも責めているようだしな。」
タ 「何も 全部を一人で背負うことはないのに。」
リ 「護衛隊長故にだろう。」
ロクスのことを 本人が思っている以上に理解している二人は
複雑な思いで その姿を見送った。
暗い森の中へやってきたフジールは
膝から崩れ落ち 拳で地面を何度も叩きつけた。
何も出来なかった自分が 情けなくて 腹立たしかった。
無力だと言われた自分を 否定出来きないことへの虚無感。
そして なによりサラシャに傷を負わせてしまったことへの 罪悪感が
フジールをどん底へ叩き落とす。
俺のせいでサラシャが・・・。 俺が弱いばっかりに。
俺がサラシャに守られてどうすんだよっ!! くそっ くそっ!!
やり場のない気持ちに 地面をグッと掴むと フジールの手にうっすらと血が滲む。
そして溢れ出した涙が 乾いた土にポツポツとその痕をつけた。
俺にも ロクスやリュールのように剣が使えたら
タトゥミのように魔力があったら ヒヨのように優れた才能があったら・・・・
誰にも劣ることのない力が この手に欲しい。
フ 「うわ――っ!!」
その思いを吐き出すように泣き叫ぶと フジールはもう一度大きく地面を殴りつけた。
ヒ 「もう そのへんにしておけよ。 せっかくサラシャに治してもらった腕だろう。」
フ 「ヒ、ヒヨ?」
フジールを追ってきたヒヨが そっと肩に手を下ろすと
フジールは歪んだ顔を ゆっくりとあげた。
フ 「そうさ。 サラシャが自分を犠牲にしてまで治してくれた腕だ。」
ヒ 「卑屈になっちゃいけないよ。それに そんなに自分を責めるな。」
フ 「だけど 全部俺のせいには変わりない。
以前 ロクスに実戦を積まないと痛い目に合うって言われたことがあるんだ。
それなのに 俺はほぃほぃ返事だけ調子よくて いつも皆に甘えてた。
だからいざって時に 何も出来なくて・・・。」
ヒ 「フジール・・・。」
フ 「俺さ この旅抜けるよ。 みんなに悪かったって伝えといて。」
ヒ 「それでいいのか? 本当にこのまま行ってしまうのか?」
フ 「・・・うん。 俺がここにいると サラシャだけじゃなくみんなにも迷惑をかけてしまう。」
ヒ 「だけどさ!」
フ 「それに 俺は輝勇石の戦士じゃない・・・ しさ。」
ずっと心の片隅で思っていたことを 漏らすフジール。
自分は戦士じゃない。 それでも サラシャを守りたくて
いや ただ傍にいたかっただけなのかも知れない。
そんな自分と決別するためにも フジールはサラシャから離れることを決意した。
悲痛な表情の中に 隠れた強い意志。
それがヒヨにも伝わり もはやフジールを引き止めることは出来なかった。
ヒ 「でも いつか戻ってくるんだろ?」
フ 「それはまだわからない。」
ヒ 「僕は待ってるから。 だから必ず戻ってこいよ。」
モ 「もっさー。」
フ 「ありがとう。 もっさーも俺を励ましてくれてんだな。
お前のことは苦手だったけど 離れるとなるとやっぱ寂しいな。」
モ 「もっさぁ〜。」
フジールは苦笑いしながら 意外と弾力のあるもっさーを撫でた。
そして 気付いたようにポケットから何かを取り出した。
フ 「あ、そうだ。これ賞金稼ぎの街で買ったんだけど
サラシャに渡してといてくれるかな? 迷惑かけてごめんって。
それから・・・・ どんなに離れていても いつもサラシャを想ってるって。」
ヒ 「うん わかった。 伝えておくよ。」
ヒヨがフジールの気持ちと一緒に預かったのは
涙の結晶のような宝石がついた指輪だった。
そして フジールは強さを求める為
己自身との闘いの旅といえる道を 一人歩き出した。
|
|