〜 ひずみ 〜



テントに戻ったヒヨは みんなにフジールが旅立ったことを伝えた。



ロ 「そうか」



ロクスは一言そう言っただけで あとは何も話さなかった。

タトゥミとリュールも黙ったままで そんな3人を見て ヒヨは寂しさを感じつつ

その日は 旅に出て一番静かな夜を過ごした。









朝になり 未だサラシャの意識は戻らぬまま

フジールのことは避けるようにして触れず 重苦しい空気の中

みんなは朝ごはんの火を囲んだ。



ヒ 「ロクス 少し休んだほうがいいんじゃないか?」

タ 「えぇ。あなた 昨日から一睡もしていないでしょう?
   サラシャの看病なら アタクシが代わるから」

ロ 「気遣いはありがたいが 大丈夫だ」

リ 「人の好意には 素直に甘えておくもんだ。 あまり無理をするな」

ロ 「俺は 無理などしていない」



あくまでも頑なであるロクスに 3人は顔を見合わた。

護衛隊長としての 責任 義務だと理解していても

仲間である以上 自分たちをもっと頼ってほしいと思わずにいられない3人は

小さくため息をつく。

そんな中 テントからサラシャが飛び出してきた。



サ 「フジール! 腕はもう平気?」

ロ 「サラシャ? 意識が戻ったのか?」

サ 「うん。 この通り」

タ 「もう平気なの?」

サ 「心配かけてごめんね。 まぁまぁ大丈夫だよ」

リ 「まぁまぁって・・・。 微妙だな」

サ 「それよりフジールは? 姿が見えないけど?」

ヒ 「フジールは・・・・。」



言葉を詰まらせるヒヨに 不思議そうな顔をするサラシャ。

そのまま黙ってしまったヒヨの変わりに ロクスが言葉を続けた。



ロ 「フジールには この旅のメンバーから外れてもらった」

サ 「・・・・え? どういうこと?」



外れた?

漠然としか理解出来ず サラシャの動きが一瞬止まった。



ロ 「フジールは もうここにはいない」

サ 「どうしてッ!?」

ロ 「まともに戦えない奴は この旅に必要ないからだ」

サ 「ロクスが・・・ そう言ったの?」

ロ 「あぁ」



パシーン!!



ぉ姫様教育第36項“平手の極意”が ロクスに向けられ

乾いた音が鳴り響く。



サ 「酷いっ! なんでそんなこと言ったの? フジールは頑張ってたじゃない!」

ロ 「頑張った結果がこれでは 何も意味がない。
   タトゥミ 包帯を一度取り替えてやってくれ」

タ 「え、えぇ・・・。 サラシャ 一旦テントに戻りましょう」

サ 「まだ 話は終わってない。今回の怪我は私の勝手な行動が原因でしょ!
   フジールには何の責任もないのよ。それなのに・・・。
   こんな場所で 一人になったりしたら フジールはどうなるよ!」

ロ 「・・・さぁな。 あとはフジール自身の問題だ」



そう言ってロクスはその場を離れていった。



サ 「ロクスのぉ馬鹿ッ!!」

リ 「信じて待て。 そう言いたいんだろ あいつは」

サ 「でもッ!」

ヒ 「僕はサラシャの気持ちがわかるよ。 いくら信じていたとしても
   一緒にいなきゃ 不安に決まってる。
   どれだけ心配しても 自分は何の助けにもなってやれない。
   レヴィが資源を調達しにいった時 僕もそうだったから。
   でも レヴィはちゃんと帰って来てくれた。 だからフジールだって必ず帰って来る。」



別れを告げたあの時のフジールの目。

口では 戻って来るかまだわからないと言っていたけど

必ず戻るって 強い意志を感じた。

だから フジール…。

預かった指輪は その時 自分の手でサラシャに渡すんだ。



そしてヒヨは一呼吸置き

ぐっと唇をかみ締め 涙をこらえるサラシャに フジールからの伝言だけを伝えた。



“どんなに離れていても いつもサラシャを想ってる”



サ 「私も・・・ いつも フジールを想ってる」



サラシャは不安を振り払うかのように空を見上げ 届くことのない言葉を雲に乗せた。













フジールの抜けた一行は・・・

お昼を過ぎた頃 忍者の里へ向かって出発した。

まだ完全に気持ちの切り換えが出来ていないからか

皆 口数は少なく いっそう険しい山道が続き

肩の怪我が痛むサラシャは辛そうに息を切らす。



タ 「大丈夫サラシャ? 少し休憩しましょうか?」

サ 「平気 平気。 もうすぐ忍者の里だし ノンストップで行こう!」



心配させまいとして 元気に笑顔を見せるサラシャだったが

その額には汗がにじみ出ていた。



ロ 「休憩をしないにしても 無理はするな。 手を貸せ」

サ 「一人で歩ける」



差し出されたロクスの手を サラシャは払いのけた。

フジールが この旅を抜ける直接的原因は ロクスにあると知り

サラシャはあからさまに冷たい態度をとる。

余計にサラシャの反感を買うとわかっていながらも

普段と何ら変わらない態度で接するロクス。

何も弁解しようとしないロクスに サラシャは苛立ちさえ覚え

顔すら合わせようともしなかった。









サラシャとロクスのわだかまりは 解けないまま 山道を登りきると

そこには向こうの崖とを繋ぐ 長いつり橋が待っていた。

長さ数100m。 谷底は落ちたら一たまりもない程 かなり深い。



ヒ 「この橋を渡れば 忍者の里はすぐそこなんだけど…」

ロ 「だが リスクが大きすぎるな」

リ 「だな。 こんな見渡しの良い橋 それこそ狙って下さいと言ってるようなもんだぜ」

タ 「そ、そうよね。 そうよね。 別のルートを探しましょ」←こっそり高所恐怖症

ヒ 「河口付近まで下れば 危険を少なくして向こうに渡れそうだけど…」

リ 「かなり遠回りになるんじゃねぇか?」

ロ 「この際 仕方ないだろう。 予測出来る危険は避けたほうがいい」

サ 「私は反対。 見た感じたかが100mちょっとじゃない。 さっさと渡ればいいのよ」

リ 「と お姫さんが言ってるが どうするんだ?」

ロ 「……。」

サ 「別にロクスに判断を仰ぐ必要なんてないわ」

ロ 「…そうだな。 サラシャがそう言うのなら その選択に従おう」

サ 「何よ 気に障る言い方するわね?」

ヒ 「ま、まぁ。 そうと決まれば 先を急ごうよ」



険悪な雰囲気になりそうなところで ヒヨが緩和を促すように

二人の間に割って入った。

そして その傍らで周りが見えてない様子で

青い顔をして独り言を念仏のように唱えるタトゥミ。



タ 「そうね そうよね。 行くのよね…。 えぇ この橋を…

リ 「どうしたタトゥミ? もしかして高所恐怖症か?」

タ 「だ、だまらっしゃい! あんな橋 こんな橋 そんな橋 さくさく渡ってやるわよ」



とか 言いつつも ヒヨの後に続いて橋を渡るタトゥミの足はおぼつかなかった。



リ 「すんげぇ腰引けてるぞ。さくさく行け さくさく」

タ 「わ、わかってるわよ。後ろでごちゃごちゃ言わないでくれる! そこ! 揺らさない!!」



普段では あまり見ることが出来ないタトゥミの姿を面白がって

わざと橋を揺らすリュール。 ちょっと意地悪である。

でも なんかこの二人。 わりと良いコンビかもしれない。

その後ろに続くサラシャとロクスは 前の二人と違って無言のまま橋を渡っていた。





このまま何事もなく渡り切れればいい。 そう願いながら先頭を歩くヒヨが

つり橋の真ん中あたりまで来たところで ふともっさーの異変に気付き立ち止まった。





ヒ 「もっさー!?」



出たよ! いつもの如くもっさーの警告だ!

上を見ると お約束のように 魔物がこちらに向かって飛んできている。



ヒ 「やばい! みんな早く橋を渡りきるんだ! 走れー!」

リ 「やっぱり きやがったか。 ここじゃまともに戦えない。 急げタトゥミ!」

タ 「む、無理よ。 走れないわ。 白状するけど アタクシ高所恐怖症なのよー!」

リ 「そんなことは 今更言わなくてもわかってら!! っとに、手間をかけさせるな」



そう言うと リュールはタトゥミを担ぎ上げて ばびゅ〜んと走り出した。

そして それに続いて走るサラシャ。

が 途中で肩を押さえて その場でうずくまってしまった。

無理をしてきたのが タイミング悪く今になって祟ってきたらしい。



ロ 「サラシャ 立てるか? 肩に掴まれ」

サ 「ひ、一人で大丈夫だって言ってんでしょ!」

ロ 「こんな状況なのに 意地を張ってる場合か!」

サ 「意地なんか張ってない!」



そうこうしている内に 攻め寄った魔物が 二人に襲い掛かる。



リ 「後ろだ ロクス!」

ロ 「言われなくとも」



先に 橋を渡りきったリュールが声をかけると同時に

ロクスは剣を抜き 後ろ手に迫った魔物を斬り払った。

しかし 次から次へと魔物はやって来る。



タ 「援護するわ! とにかくサラシャを連れてこっちへ!」



すっかり頼もしい魔法使いに戻ったタトゥミが 魔法を放とうとすると

目の前に魔物が現れ タトゥミに向かって斧を振り上げた。



ヒ 「危ないっ! 伏せろ タトゥミ!」



タトゥミが伏せた頭上を ヒヨの特大ブーメランが飛び そのまま魔物を真っ二つ。



タ 「助かったわ。 ありがとう ヒヨ」

ヒ 「どうやら 向こうを援護してる暇はないみたいだよ」

リ 「あぁ。 こっちはこっちで忙しくなりそうだ」



見ると3人の周りにも ものすごい数の魔物が攻め寄ってきている。

ひとたび戦闘が始まると ロクスのほうを気遣う余裕はなかった。



なんとか立ち上がったサラシャは 縄をつたいながらゆっくりと足を進めた。

ロクスも足場の悪い橋の上 懸命にサラシャを守りながら

その動きに合わせ移動をする。



橋を渡りきるまで 20m… 15m… 

わずかな移動で距離を詰めると同時に魔物の数も減っていく。

あと10m… 5m…











  


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