〜 番人の迷い 〜



魔法族の長というくらいだから シワシワでモジャモジャを想像していたが

そこにいたのは 普通のぉ兄さんだった。

意外だったが まぁ名前を聞いた時点で少し予想はついていた。



サラシャ達は パッピ長に今までのいきさつを話し 輝勇石を探していることを告げた。



「そうか。ミャカがそんなことを。」

「えぇ。ここに来れば何かわかるんじゃないかって。」

「お姫様が直々に来て何事かと思えば 輝勇石のことだったか。
 トン・ソォークが復活したという話は俺も聞いている。」

「それで どうなんだ? 輝勇石はここにあるのか?」

「あったとしても教えるわけにはいかないな。」

「どうして?」

「じゃあ聞くが サラシャ姫。もし輝勇石を手に入れたらどうするつもりなんだ?」

「その輝勇石を持つべき人を探します。そして一緒にトン・ソォークを・・・」

「だろう? それは人一人の命を預かるってことになるんだぞ?
 命がけの旅に連れ出すんだ。それをわかってるのか?」



パッピ長に突きつけられた言葉に サラシャは眉をひそめ黙り込む。

フジールも同じように肩をすくめてしまった。

ロクスは横目でサラシャを伺うと 一点を見つめて何か考えてる様子だった。

そしてその視線を パッピ長に向けると グッと拳を握り きつく結んだ 口が開いた。

今までに見たこともない 真剣な表情で。



「サラシャ・・・?」

「それは違うと思う。 私は命を預かるとか、命を賭けろなんてことは言ってない。
 だって それを決めるのは本人だから。
 本人にその意思がないのなら 無理に連れて行こうとは思っていません。」



今度はサラシャの言葉に パッピ長が驚いた様子で黙り込む。

そしてお互いに 黙ったまま視線をぶつけていた。

すばらくすると パッピ長の表情が緩み 笑いをこぼした。



「なるほど・・・。どうやら侮っていたようだな。さすがお姫さんだけのことはある。」

「じゃあ!?」

「まぁ、そう焦るなって。 一日待ってくれないか?」

「一日?」

「あぁ。それに明日は年に一回行われる魔術大会の日なんだ。
 それを見てからでも遅くはないだろ?
 今日はここでゆっくり休むといい。今、部屋を用意させる。」





輝勇石のこともあるし 今日はパッピ長の好意に甘えて泊めてもらうことにした。

それに 魔術大会っていうのも見てみたい。

部屋に案内されて サラシャとフジールは気が抜けたように寝転んだ。

ロクスは ドアを背にして腕を組み座り込む。



「一日待ってくれってことは、ここに輝勇石があるってことよね?」

「あぁ 間違いないだろうな。」

「やったな、サラシャ! ここに来て正解だったじゃん♪」

「ホントだねぇ。 くそエライ思いをした甲斐があったね♪」

「 (姫が“くそ”とか使うな・・・)
 あまり浮かれすぎるな。 まだ手に入るとは決まってはいないんだぞ。
 それよりもサラシャ。 さっきのパッピ長を納得させた気迫は見事だった。
 俺も内心驚いたが 少しは姫としての風格も備わってきたようだな。
 これからもその調子で・・・って、おい!?」

  「「 zzzz。。。。」」

「ふ、二人とも寝てやがる・・・・(泣)」



やれやれ 感心したと思ったら すぐコレだ。

せっかくの 長セリフを・・・



「ま、仕方ないか。旅の疲れもあるしな。」





窓の外を見上げると 綺麗な満月が夜を照らしていた。

その満月に誘われるかのように ロクスは立ち上がる。



「少し外の空気でも吸って来るか。」



ロクスは寝冷えをしないようにと サラシャとフジールに布団をかけてやり外に出た。









別の場所でも満月を眺める者が一人・・・



「輝勇石ね・・・」



都の入り口で見張りをしているタトゥミは パッピ長とサラシャ達の会話を思い出す。



「命を賭けるのは自分の意思。 なかなか言ってくれるじゃない、あのお姫様。」

「こんな時間まで大変だな、番人ってのも。」



その声に タトゥミが振り返ると 月明かりに照らされたロクスがいた。



「ロクス!? あなたこそこんな時間に一人で。
 お姫様には付いていなくていいのかしら?」

「この都は安全だろう。強い番人もいることだしな。」

「持ち上げても何も出ないわよ?」

「ふっ。またフレイムを出されても困るけどな。」

「んまっ、言ってくれるわね!
 ・・・・ねぇ暇だったら少し話し相手になってくれない?」

「別に構わないが。」



門の扉に背をあずけて 月を見上げるロクス。

タトゥミも同じように月を見上げて 話し始めた。



「大変そうね。」

「何がだ?」

「昼間、悪いとは思ったけど聞いちゃったのよね。 貴方たちの旅の目的。
 本気であのトン・ソォークを倒そうと思ってるの?」

「あぁ。 ま、その前に輝勇石を集めないといけないわけだが。」

「その輝勇石のことなんだけど・・・
 ここにあったとしても 無理だと思うわよ。」

「なぜそう思う?」

「アタクシ達 魔法族のほとんどは この都から出た事がないし出ようとも思わないわ。
 ここを去るときはこの都を捨てる時・・・
 都を捨ててまで旅に出ようとは 思わないんじゃないかしらってね。」

「捨てる? 守るの間違いだろう?
 自分の都を守るためにも旅に出る。そうは考えないのか?」



ロクスにそう言われ ハッと息を飲むタトゥミ。

しかし それを振り切るかのように言葉を返した。



「そ、それに あのお姫様にそんな覚悟があるとは思えないわ。」

「だろうな。(笑) 本人曰く 適当 らしいからな。」

「適当って・・・ そんなのでいいの?」

「あれでも芯はしっかりしてるんだ。」



そう言い苦笑するロクスに タトゥミが納得出来るはずもなく。



「そうなのかしら。」

「気になるのなら 自分で確かめてみたらどうだ?」

「別に気にしてるわけじゃ!」

「やけにムキになるな・・・ 」



ロクスが視線をタトゥミに向けると タトゥミはそれを避けるかのように 顔を逸らした。

そしてそのまま しばらく沈黙が続いた。



「さて、そろそろ部屋に戻るとするか。
 明日の魔術大会にはタトゥミも出場するんだろ? 楽しみにしている。」

「えぇ。ありがとう。」



ロクスの姿が見えなくなると タトゥミは小さくため息をついた。



「このアタクシが 動揺するとはね・・・」



何もかも 見透かされてるような気がした。

“都を守るためにも” その言葉がタトゥミの心を揺らす。

だけど・・・ 





タトゥミの迷いは 晴れぬまま 夜が更けていった。









    


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